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Brief1 (イヌ):ジェンダーは「記号」である


 イヌというのは、不思議な動物です。
 いえ、イヌ自体が不思議なのではなく、イヌを見るときの人間が不思議だと思うのです。
 たとえば、ラブラドールレトリバーとチワワ。その2匹を見て、私たちは、両方ともイヌだと思います。プードルとドーベルマンを同じ種の動物だと認識します。
 不思議だと思いませんか?
 大きさからいっても、体型からいっても、毛の色や長さからいっても、それらの形のちがいは、「キツネとタヌキのちがい」より、ずっと大きいでしょう。
 なのにどうして、人間は、それだけ形態の違う動物を同じイヌだと認識するのでしょう?
 もちろん、生物学的には「交配可能な動物」ということで、同じ種だということは証明できます。でも、そんなことをなにも知らない小学校低学年の子供でも、ラブラドールレトリバーやチワワを初めて見たとき、おそらく同じように「イヌだ」と認識するはずです。
 たぶんそれは、イヌという種が持つ固有の属性を、私たちが「イヌという記号」として読みとっているからです。鼻が丸くて濡れているとか、モノを見ればまずその鼻を近づけて臭いをかぐとか、うれしいとシッポを振るとか、もちろん「ワンワン」吠えるとか‥‥。

 逆の事柄もあります。
 2歳未満の幼児を動物園に連れて行くと、あっちの檻を見てもこっちの檻を見ても、「ワンワン」「ワンワン」と言ったりします。
 さすがにサルやワニを見て「ワンワン」とは言いませんが、体毛が生えていて四つ足で歩いているものは、たいてい「ワンワン」です。
 子供は、とりあえず、そんな特徴の生き物を「ワンワン」というカテゴリーにくくるわけです。(家でネコを飼っている子は「ニャアニャア」かもしれませんが。)そして、だんだん、その「ワンワン」の中から細かい記号を読みとって、動物のカテゴリーを分化させていくわけです。
 そして、ここで大事なことは、人間はそれを、けっして意識的にやっているわけではないということです。4歳になれば、ふつう、イヌとタヌキのちがいはもう区別がつきます。でも、4歳児に「どこがどうちがうの?」ときいてみても、言葉でははっきりと答えられないでしょう。多くの部分の記号は、明確な意識とは別のところで読みとっているわけです。

 じゃあ、「男と女」のちがいはどうでしょう?

 それについては、日頃、私は面白い体験をしています。
 私は、仕事や友人とのつき合いで、「女っぽい」などと言われたことはありません。
 髪を背中の真ん中あたりまで伸ばし、眉とかも手入れしていたりするのに、ふだんの生活での言動や行動、それに表情などは、むしろ男っぽいのでしょう。
 だから、その風体から「ちょっと変わった人だ」とは思われているかもしれませんが、ジェンダーにまつわることで、奇異な目で見られることはまずありません。
 ところが、街を歩いていたりすると、ある年齢層の子供だけが、私のことを不思議そうな顔でずっと見ているのです。
 おそらくは2歳児から3歳児前半くらいでしょうか? なにか「不思議な生き物」を見るという顔で見てきます。どうも、やはり髪の毛を見ているようです。
 たぶん、「髪が長いのが女で短いのが男」という記号の基準が、このくらいの月齢でできるのでしょう。そんな基準ができたのに、他の記号を読みとる力はまだない。だから、私を見て、判断に苦しむのだと思います。
 4歳以上の子供は、そんなことはありません。それは、「髪の毛」という記号以外に、もっと多くの「男と女を区別する記号」を獲得していて、ふだんの私を、即座に男だと判断するからだと思います。

 生殖だとか妊娠出産にまつわる生物学的な性別=セックスはともかく、社会的な性基準であるジェンダーについては、けっきょくは、そんな「記号の集合体」として成り立っているのでしょう。

 で、そう考えると、イヌにラブラドールレトリバーとチワワがいるように、女にもいろんなのがいます。(こんな言い方をすると女性差別だと思われるといけないのでことわっておきますが、男ももちろんそうです。)
 しかし、そんなさまざまな女性を見て、「女だ」と認識する以上、そこには、(無意識のうちに読みとっている)女というカテゴリーに共通する記号がいくつもあるはずです。
 「女に見せたい」のなら、まず、そんな「女の記号」を意識的に見つけだすのが早道ではないでしょうか。

 女装趣味の方から、私のところ(「柴野まりえ」宛て)に来るメールには、たいてい「私も女らしくなりたい」というようなことが書いてあります。でも、そんなふうに漠然と「女らしく」と思っていても、たぶん、男が女らしくはなれない気がします。
 漠然とした「女らしさ」などというのは、4歳児がイヌとタヌキの区別はできても、そのちがいが言葉にできないというのと同じことです。

 私が、最初に女装したときの写真から、わりと「女」になっていたのは、長い間、「女装小説」を書いてきたからだと思います。
 小説の中では、女装者が女装した時の「女らしさ」をより具体的に書かなければなりません。ただ「女装した彼は女にしか見えなかった」と書いてみても、説得力もなにもないわけですから。その時、彼はこんな仕草をしたとか、こんな眼差しをしたとか、あるいはこんなメークの仕方や服の着方をしたとか、そんなディテールにおよぶ具体的な表現で「女らしさ」を表していくわけです。
 そして、そんな表現をするために、私は女性独特の表情や行動や雰囲気を観察し、その意味を考えるのがクセになっています。
 つまり、私はどうやら、「女の記号」をより意識的に見つけだそうとしてきたのだと思います。それが、いざ自分が女装する時に役に立ったということです。

 トランスジェンダーをめざすなら――特にTSでなくTVであるというなら――、あいまいに「女らしさ」を求めるのではなく、そんな「女の記号」ひとつひとつを分解・分析して、それを意識的に追求していかなければ、「女に見せる」ことは無理でしょう。

 今後、このエッセイでは、おおよそ次のような項目で、そんな「女の記号」を見つけだし、男がそれをどう表現したらいいかを書いていきたいと思います。

1.体型とポーズ
2.表情とメーク
3.気持ちとシチュエーション
4.撮影テクニック

 ただ、私は、「女装写真を撮る」という範囲内でしか女装したことがないので、それ以上のことは、(小説と同様)想像でしか書けません。そこのところは、了承しておいてください。
 いずれにしても、思いついたところから、また、メールなどでご質問をいただいたことから、私が修得した「女の記号」の表現テクニックを書いていきたいと思います。

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