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Brief20 「二重まぶた」:アイメークは黒目の「補助線」かもしれない


 ファンデーションを塗ったところで、次にやることはアイメークです。
 今回からは、この、メーク中、いちばんの難関でもある目に話を進めます。

 以前のこのエッセイ(Brief4〜6)で、「白目は女の記号だから、目を女らしく見せるには、白目がたくさん露出するよう意識するとよい」ということを書きました。
 あれは、私の経験に基づく実践論だったわけで、その考えは、今も正しいと思っていますが、では、白目がたんさん見えると、どうして女らしい目になるのか? そこの理屈は、いまひとつはっきりしないままでした。

 今回、アイメークのことを書くにあたって、そのあたりのことをもう一度じっくり考えてみようと思いました。そして、そうこうするうち、唐突に、意外な記憶がよみがえってきました。

 以前、朝日新聞社から出ていた「アニマ」という動物科学雑誌に、漫画家の故手塚治虫さんが「かわいい」ということについて書いていたのを思い出したのです。(今回、原文に当たろうとDVD版「手塚治虫全集」を調べたら、1978年4月号に掲載された「かわいらしさをどう表現するか」という単発エッセイでした。‥‥それにしても、20年以上前に一度だけ読んだ文章を、よく覚えていたものです。)
 その前半で、手塚さんは、動物や人間の子供を見て「かわいい」と感じるビジュアル的な要素について、おおよそこんなことを書いています――

 アニメーションで動物や人間を描く時、動きを考えやすくするために、体の部位や関節を、いくつかの球体の組み合わせとしてとらえる。どうも、この球体で描くということが、はからずも、アニメ表現のかわいらしさにつながっているようだ。
 またこの時、人間を含むたいていの動物の子供は、この構成する球体の数が少なく、大きな球体数個だけで表現できる。大人になるにしたがって、表現するための球体の数は増し、同時に、ひとつひとつの球体そのものは小さくなっていく。
 赤ん坊に対する感情の反映かもしれないが、どうも、人間の「かわいい」という感情は、この球体によって喚起されるらしい。球体が大きく、また数が少なくて全体としての姿がまるまっちいほど、人は、その形態を「かわいい」と感じるようだ。

 ――いかにも、丸っこい描線が特徴の手塚治虫さんらしい観点だと思いますが、この分析は、実感としてよくわかります。
 たとえば、パンダは、成獣になってもかなり丸っこい動物です。だからこそ、人は、パンダに特別な愛着を抱くのでしょう。

 で、なんで突然、こんなことを思い出したかというと、ここで書かれている「球体」というのは、平面的に見れば(そもそもアニメも漫画も平面表現なわけです)「円」、特に「正円」ということでしょう。人は、円という図形に対して「かわいい」という感情を持つわけです。
 そして、そう考えてみると、前述の「白目をより露出させる」ということは、逆にとらえれば「正円である黒目の輪郭をはっきりさせる」ということでもあることに気がついたのです。
 つまり、目を開いて白目を露出させることで、その結果として、黒目をちゃんと丸く、正円として見せることができる。それが、“かわいい”「女の記号」を表現しているのではないかという気がしてきたのです。
 白目を意識することは、実践論としては正しいけれど、「記号」ということで言えば、むしろ、「黒目の丸さ」の方が重要なのかもしれません。

 多少のゆがみはあるのでしょうが、人間の黒目、つまり瞳孔と虹彩の部分は、誰でも、ほぼ正円です。しかし、この正円が、まるまる見えていることはほとんどありません。たいていの場合、その一部は上下のまぶたによって隠されています。
 で、この黒目の輪郭、つまり正円の円弧が、どれだけ見えているかで、目の「かわいらしさ」が決まってくるような気がします。

 ためしに、この2つの写真を見くらべてください。顔の左右の角度はほぼ同じで、うつむき加減が若干ちがいます。そのため、白目の見え方はほぼ同じでも、黒目の輪郭の見え方にちがいがでています。
 ちがいのはっきりわかる左目だけを見たら、どちらがより女らしい“かわいい”あるいは“やさしい”目に見えるかは、一目瞭然でしょう。
 前に「視線をはずした横目の方が、より白目が強調されて女らしく見える」と書いたことも、言葉を変えれば、「横目にした方が、黒目の横側の円弧が、まぶたにじゃまされることなく強調されるので女らしく見える」ということなのかもしれません。

 さらに、だとするなら、同じ横目でも、黒目が目がしら側にあるのと、目じり側にあるのでは、大きく異なります。この写真は、カメラに対して視線をずらしているわけではありませんが、顔が大きく横を向いているので、左目は黒目が目じり側に、右目は目がしら側に来ています。
 眼球と上下のまぶたのかねあいでできる目の外形は、極端にいえば「しずく」のマークを横向きにしたような形になっています。目頭側は円弧に近い曲線で、目じり側はいわゆる「切れ長」になっているわけです。で、この時、どちらに来ている時が、黒目はより円弧に近い形をしているかといえば、ごらんのとおり、目がしら側に来ている時です。

 今回、そんなことをあれこれ考えていたら、私が体験的に身につけてきたアイメークのノウハウの意味が、やっとはっきりしてきた気がしました。
 ただ経験則だけを書き連ねるよりは、原理的に理解する方が応用も利くと思うので、今回は、アイメークのやり方を順を追って説明しながら、その点を解き明かしていきましょう。

 まずは、これもまた、美人女性の記号である「二重まぶた」ということから、話をはじめます。

 私は、ふだんでも、まちがいなく二重まぶたです。しかし、この写真では一重に見えるかもしれません。いわゆる「奥二重」というやつで、目を開けた状態では、二重の上の皮がまぶたの縁に重なってしまうわけです。日本人の男性にはよくあるパターンです。これは、要するに、まぶたの皮が折れ重なるラインが目に近い位置にありすぎて、二重の意味がなくなっているということです。

 そして、今度は、メークしたあとの写真です。
 こちらは、目を開けているにもかかわらず、はっきりした二重になっているでしょう。
 これは、魔法でもなんでもなくて、じつは、二重になる折れ線の位置を、強引に変えているのです。
 そのためには、アイリッド・リキッドというものを使います。一重まぶたの女性が、二重にするために用いるのか一般的ですが、奥二重の位置をずらし、折れ線の位置を上げるのにも効果があります。
 アイライナーなどと同じような容器に入った液体で、ふたについた小さな筆で、その折れ線をつくる場所にラインを引きます。
 見たことがない人には想像がつかないかもしれませんが、筆につけた段階では白いさらさらした液体で、見かけも作用も木工用ボンドに近いといえばわかっていただけるでしょうか。(たぶん、組成としても近いものだと思います。しかし、だからといって、木工用ボンドで代用したりしないでください。)
 塗った時は白いのですが、やがて乾くと木工用ボンドと同様、透明になって粘着性が強くなり、さらにその部分が若干縮んで突っ張ってきます。それにより、塗ったラインに沿って皮が引っ張られ、強引にまぶたの折れ線をつくってしまうわけです。奥二重の場合も、この部分の皮膚が突っ張ることで、本来の折れ線が消え、ここに新たな折れ線ができます。もとの二重より、ひとまわり大きな輪郭の二重まぶたになるのです。

 まぶたが突っ張って気になることもあり、私は、いつもこれを使っていたわけではありませんが、二重を強調したい時には塗りました。
 ちなみに、同じ役割を果たすものにアイリッド・テープがあります。こちらは、張力のあるテープを細い弓形に切り抜き、まぶたに張ることで、やはり、新たな折れ線をつくるという仕組みです。
 アイラインやシャドーを塗る前に、これらのものを使っておけば、一重まぶたの人でも女らしい大きな二重をつくることができるはずです。

 と、ここで、皮膚の折れ線が高い位置にある、つまりつくりの大きな二重だと、どうして女らしい目に見えるのかを、あらためて考えてみたいと思います。
 前に書いたように、黒目は、たいていの場合、一部がまぶた――特に上まぶた――に隠れています。それで、かわいらしいはずの黒目の正円が、円として見えないわけです。
 まぶたの二重のラインというのは、もしかすると、その隠れている黒目の輪郭を見えているように錯覚させる、あるいは、そこまでいかなくても、見えない黒目の「円さ」を想起させる役割を果たしているのではないでしょうか? つまり、“かわいらしい”黒目の正円を表現するための「補助線」ということです。
 どうもそれが、女の記号としての大きな二重まぶたということではないかという気がします。

 そして、そう考えると、このあとのアイシャドーにしてもアイラインにしても、それに次回書く予定のまつげのメークにしても、私が体験的に身につけてきたアイメークのコツは、すべてその原則に当てはまります。

 アイシャドーは、ふつう、グリーンやバイオレット、ピンクなどの明るい色と、茶系やパープル系の2種類、またはそれ以上を組み合わせて使います。まぶたの縁にそって明るい色を伸ばし、眼窩に暗い色を入れるというのが基本ではありますが、入れ方や色の選択は、その人の目の形、あるいは、その日のファッション、そしてその時々の流行によってさまざまです。いろいろ試してみてください。

 アイライナーは、前に書いたアイリッド・リキッドと同様のふたに小筆のついたリキッドタイプが多く使われてきましたが、最近の若い女性は、ペンシルタイプを使うことが多いようです。
 当然ながら、リキッドタイプの方がはっきりした線が描けますが、筆を使い、また修正が困難なぶん、慣れるのがたいへんです。
 いずれにしても、アイラインは、まつげの根本にそって、あまり太くなりすぎたりデコボコにならないように慎重に描いていきます。

 と、ここまでが、一般的なアイシャドーとアイラインの注意事項。
 ここからが、私の体験的なノウハウです。
 私の経験によれば――女性でもそうなのでしょうが――特に男性のまぶたの場合、アイシャドーにしても、アイラインにしても、目の中央から目じりにかけて「濃く」するつもりで使うとうまくいきます。
 アイシャドーでは、濃い色を、そのあたりと、目の少し外側くらいまでに多く重ね、目じり側が濃くなるようにします。
 アイラインは、目がしら側では細く描き、中央あたりからあとは、少し太めにして強調していきます。

 で、よく考えてみると、これが、二重まぶたのところで書いた原則と合致しているわけです。
 黒目が正円に見えにくい目じり側のまぶたを濃いめにする。これは、結局、まぶたのせいで黒目が欠ける部分を、アイメークで補ってやる、つまり、アイメークが補助線的な役割を果たすということです。

 黒目がどう動いても、その「円さ」を感じさせるように「補助線」を描き加えてやる。どうやら、そう考えることが、アイメークの極意であるようです。

 私も、もう少し早くそれに気がついて意識していれば、もっと効率的にメークが上達しただろうに‥‥。


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