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Brief27 「スカート」:視線への意識=女装の神髄かも


 今回から数回は、服、特に女性特有の服の着こなしや注意事項について話そうと思います。

 女性特有の服‥‥といえば、なにをおいても、まず、スカートでしょう。
 ふつう男性は(スコットランドにでも生まれないかぎり)、一生身につけることのない衣服です。
 そういう意味では、スカートこそが、まさに「女装」そのものと言ってもまちがいではないと思います。
 実際、女装傾向のある男性の、スカートに対するあこがれは強いものです。
 しかし、ホームページの写真などを見ていると、このスカートを、上手にはきこなしている女装者というのは意外と少ない気がします。

 スカートには、じつにさまざまな種類・分類があります。

 まず、丈から言えば――
 おおよそ、ひざ上10センチ以上のものがミニ、そこからひざ丈までがミディ、ひざを被ってその下くらいまであるのがミモレ、それ以上くるぶしまでがロングという区分になります。ひざ上25センチ以上をウルトラミニと区別することもあります。

 デザインとしてもさまざまで、生地のカットのしかた、というか、裾の開き方で区別すれば――
 体のラインに沿ってぴったりしぼってあるタイトスカート、裾が広がって波打つフレアスカート、もっと裾が広がったパラシュートスカート、さらに広がり、開くと完全な円形になってしまうのがサーキュラースカート。60年代青春映画のダンスパーティのシーンで、ポニーテールの女の子がロックンロールに合わせてターンすると、バーッと広がるあれです。

 また、生地やデザインにさまざまな加工が施されているものもいろいろあり、その代表としてはプリーツスカートでしょう。
 このプリーツのつけ方にもいろいろあり、ふつうのアコーディオンプリーツ以外によく見かけるのが、箱型ひだのボックスプリーツ。その他、ひだ幅の広さもふくめ、種類はさまざまです。
 変わった形ですが時々着ている人を見るのは、ミモレやロング丈のタイトスカートの裾まわりに切り返しがあり、そこに大きなラッフル(ひらひら)を施したマーメードスカート。ちなみに、これは、そのシルエットが人魚の下半身と尾びれに見えるからです。

 そんな装飾をふくめれば、他にもさまざまなデザインがあり、さらに素材も、綿・シルク・ポリエステルからデニム・ニット・レザーまでいろいろなものがあるわけです。
 それからもちろん、単独のもの以外に、トップスとセットになったスーツのスカートもあるわけですし、ワンピースやパーティードレスだって、ボトムの部分はスカートと呼びます。

 そうしたさまざまな丈やデザインによって、それぞれ、はく時に注意しなければならないことはあるわけですが、スカート全般にほぼ共通した着こなしのコツが2つあります。
 ひとつは「ヒップライン」、もうひとつは「裾」。その2点に気を使うということです。
 前述の女装者の着こなしのまずさというのも、ほとんどこの2点に集約されます。

 まずは、ヒップラインについて。

 「どうすればいいのか」という結論から先に言ってしまえば、このエッセイで以前何度も書いたドナルドダックスタイル、つまり、ヒップを後ろに突き出す姿勢がちゃんとできているかどうかが決め手になります。
 これができておらず、ふだん男がとるような姿勢で立つと、スカートのシルエットは、まずまちがいなく「しまりのない、だらしない感じ」になります。

 タイト気味のスカートの場合は、丈にかかわらず、当然ヒップラインがあらわになりますから、その意味はすぐ理解できると思います。でも、そんなスカートではなく、裾が広がったゆったりしたスカートやプリーツスカートなどでも、同じことが言えるのです。また、ヒップラインのわかる横から見た時だけでなく、前から見た時もそのちがいはけっこう出てしまいます。
 どういうことかというと、裾から見える脚がスカートの前側から出ているか後方に見えるか――別の言い方をするなら、スカートの前側の裾がどれだけ膝小僧に接近しているか――によって、見わけられるからです。
 つまり、ヒップラインが後ろにつきだしていれば、スカートが体の中心線に対して後ろ側に引っ張られる。それで、脚が前の方から出て見えるというわけです。全体のシルエットとしてはこの方が確実に女性的に見えますし、また、スタイルもよく見えます。
 例示した右中央の写真は、脚がまだスカートの中心あたりにありますし、ポーズも意識していますから、これくらいなら問題ないのですが、女装サイトで見かける写真の中には、スカートのボリュームが完全に体の前側に寄ってしまい、膝の裏あたりが後ろの生地に触れているというような着方の方も、時折いらっしゃいます。
 本人はそのつもりがなくとも、これではまるで、下腹部をつきだしているように見えてしまいます。はっきり言って、かなりしまりのない姿です。
 そもそもスカートは、女性のヒップラインを想定して作られているものです。
 ヒップのボリュームがない男が何の意識も払わずにはくと、概してそんな格好になるのです。
 スカートをはくなら、お尻を突き出す。それを覚えておいてください。

 次は、裾です。

 これについては、言いたいことは簡単で、要するに「スカートの中が見えないように気をつける」ということです。
 スカートの中、特に下着が見えてしまうというのは、やはり格好のいいものではありません。
 まあ、女装する方の中には、それを見られたいという方もいらっしゃるでしょうし、そんな写真をあえて撮りたいという方もいらっしゃるでしょう。
 もちろん私は、それを否定する気はありませんが、このエッセイのテーマは、あくまで「女の記号」。
 通常「隠したい」と思うのが女性でしょうし(もしかしたら、その見解にも反論があるかもしれませんが)、そんな仕草こそが女の記号だと思うので、ここでは、そういう指向はとりあえず度外視して話を進めます。

 たとえミニスカートをはいていても、ふつう、まっすぐ立っているかぎりは、中が見えたりはしません。でも、ちょっと脚をあげるとかさまざまな動きをすれば、角度によっては、いとも簡単に下着が見えてしまいます。また、スカートそのものがまくれ上がってしまうこともよくあるものです。
 椅子などに腰掛けたりすれば、なおさらです。

 そんなことを防ぐには、結局のところ、「つねにスカートの裾を意識している」ということしかありません。
 その上で、膝を中心にした脚の形に注意を払い、裾が開かないようにしたり、また、手はもちろん、バッグなどの小物をうまく使って隠すということも必要です。

 裾を意識するのは、なにもミニスカートの時だけでいいわけではありません。
 ミディやミモレ丈でも、スカートの裾が開いたりまくれ上がったりして太股が見えているというのは、みっともないものです。ロングの場合でも、当然美しい裾さばきというのは要求されるでしょう。
 それに、椅子に腰掛けたり、ましてや床に直に座ったりすれば、ミディ丈・ミモレ丈のスカートでも、油断は禁物。下着が見えてしまうことはじゅうぶん考えられます。
 ミニではないからと気を抜いていれば、かえって思わぬ失敗をしてしまうものです。

 たとえば、この写真。よく見ると、左手を腿の下にまわしてスカートの下をおさえているのがわかると思います。
 スカートそのものは、このページの上から3枚目と同じものですからミディ丈ですが、床に座って膝を立てているため裾が上がってしまい、しかも足先を開いているので、ちょうどカメラの位置からその部分が見える位置関係になっているのです。
それに気づき、あわてて左手を添えたという図です。
 この写真を撮ったのは、もうけっこう女装に慣れた時期だったので、そこまで気がまわり、こんなこともできましたが、それは、これ以前に何度も失敗をしているからだったりします。
 結局、つねに意識を持ち、かつ場数を踏まないことには、こんな仕草が自然に出るようにはなりません。たまにしか女装しない人が写真を撮って、そんなつもりはなかったのに、できあがったのは、いわゆる「サービスショット」ばかりだった‥‥というようなことも起こるわけです。

 しかし、それにしても‥‥。
 (ただ写真を撮っていただけだとはいえ)そんな「スカートの生活」を何週間か送ってみて、私が思ったのは、「よく考えれば、これほど理不尽な服はないよな」ということだったりします。
 2本ある脚をわざわざ1本の筒に包み、つまり、わざわざ底抜けにしておいて、その上で、その底から中身が見えてはならないというのです。
 まさに、人間存在の不条理(オーバーか?)です。

 しかも‥‥。
 先刻から「裾を意識しろ」と何度も書いていますが、これは、ただ単に裾だけを意識していればいいということではありません。重要なのは、これも何度か書いた「角度によっては見えてしまう」ということなのです。
 つまり、自分を見ている視線がどの方向から来ているのかということと合わせて、裾に注意を払わなければいけないということです。
 私のように写真を撮るだけなら、その視線は、まだカメラのレンズひとつですが、街を歩き、また、そこで日常生活を送るとなれば、つねに、どこから来るか予測のつかない不特定多数の視線に意識をめぐらせていなければならないわけです。本当に女性はたいへんです。
 もしかすると、この、「自分に注がれる視線をつねに意識している」ということこそが、最大の女の記号なのかもしれません。

 そしてまた、そんな意識こそが、スカートの、つまりは「女装」の、最大の醍醐味なのかもしれません。


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