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Brief28 「ワンピース」:女の記号をトータライズする服


 「ワンピース」というのは、正しい英語ではありません。
 いえ、もちろん「ワン・ピース」という表現はありますが、それは単に「一片」「ひとつながり」という意味しか持ちません。
 では、英語でこういう服をなんというかというと‥‥、「ドレス」といいます。‥‥ん? なら、日本で言う「ドレス」は? それは、「パーティ・ドレス」などと呼び分けるわけです。
 ただ、この「ドレス」という英語は、「ドレス・アップ」のように、広義では「衣服全般」をも表します。ですから、そこから狭義の「ドレス」を区別する必要のある時だけ「ワン・ピース・ドレス」という言い方をするのです。
 それが日本では「ワンピース」と省略され、定着したというわけです。

 なんでいきなりこんな話をしたかというと、「ワンピース」の着こなしを話すにあたって、「ワン・ピース」に立ち返って考えてみたかったからです。
 ところで、「ワンピース」と同じように、日本では、スーツのことを「ツーピース」と言いいます。そして、これは、男にも女にもあります。
 でも、男物の「ワン・ピース」な服と言えば‥‥せいぜい「つなぎ」ぐらいでしょうか? 少なくとも、男が日常着る服に「ワン・ピース」はないわけです。
 では、どうして、女にだけ、上下が「ひとつながりの」服があるのでしょう?

 繰り返しになりますが、ワンピースというのは「トップとボトムがつながってひとつになった服」という定義でしかないわけですから、そのカテゴリーの中には、じつにさまざまなフォルム、デザイン、素材、用途の服が含まれます。
 さっき言った日本でふつうに使う意味での「ドレス」もワンピースです。
 トップの部分は、長袖もあれば半袖もノースリーブもあるし、キャミソール型のものもあります。オープントップのドレスだって、ワンピースにはちがいありません。
 ボトムの方はといえば、前ページで書いたスカートの分類と同じだけのワンピースが考えられるわけです。
 チャイナドレスやムームーもワンピースですし、もっと広げてしまえば、ワンピース水着は当然ワンピース、ナース服だってネグリジェだってそうだということになります。

 まあ、そこまで大風呂敷を広げず、若い女性が「そろそろ、春物のワンピ買わなきゃ」などと言う時に想定している範囲に限ったとしても、おそらくそのデザインは千差万別、「ひとつながりの服」という以外に共通項などなさそうです。

 でも、着てみると、ワンピースにはあきらかに共通する「ある感覚」があります。

 私も実際、何着かのワンピを着てみました。
 丈で言えばミニからミモレまで。トップのデザインで言えば、長袖からキャミソールまで。フォルムで言えば、ウエストが絞ってあって体にぴったりしたものから、伸縮性ある生地が体に密着するもの、ゆったりして全体がストンと落ちる感じのものまで。
 その着心地は、当然それぞれにちがうのですが、それでも、セパレートの服を着ている時にはない、共通した「ワンピ感覚」というようなものを感じました。

 それは、身体感覚ですから、言葉で表すのはなかなかむずかしいのですが、ひとことで言えば「シルエットが意識にのぼる」というようなことになります。
 着ているだけで、体全体のラインが気になる服なのです。

 ウエストの部分に切れ目がない。
 色やデザインもひとつのコンセプトで作られ、ひとつのものとしてとらえられる。
 生地のシワや揺れさえ、上と下でつながって現れる。
 たとえば、肩をかすかにそらせただけで生地が引っ張られ、スカートの裾が上がる。
 そうした服の一体感が、着ている者に、「体全体」という感覚を否応なく意識させるのです。

 実際の話、ワンピースというのは、体のライン、つまり、体型の輪郭がよくわかる服です。
 それは、体に密着したデザインのものにかぎった話ではありません。
 生地が体型から離れたゆったりしたつくりであっても、そこに動きや体のひねりが加わると、とたんに、それまで平らだった生地の表面に体型のラインが浮き出します。
 ちょっと体を動かしただけで、裾に向かって真っ直ぐ降りていた生地が、バストやヒップのもりあがりを支点にして波打ちます。
 ゆったりしたつくりの方が、逆に、その中に隠れている「女の体」を想起させ、視線を呼び寄せそうな気さえします。

 ワンピースは、体型を際だたせる。
 ということは――
 男がワンピースを着こなすノウハウは、この連載エッセイの前半で連続して取り上げた、体型における女の記号の表現方法が、そのまま当てはまるということです。
 肩を後ろに引いて落とす。背中を反らす。お腹を引っ込め、お尻を突き出す。腕はひじの向きに気をつける。足の立ち位置に気を配る。また、膝をうまく使ってヒップラインを強調する‥‥。
 ――それらひとつひとつを、確実にこなせばいいということになります。

 じつは、逆の方向からも同じことが言えます。
 いえ、実感値としては、そちらの方が正しい気がします。

 私は、そんな「女の記号」ひとつひとつを意識しながら女装写真を撮っていたわけですが、そのすべてに、常時、気を配っているというのは、じつはなかなかできるものではありません。
 腕に注意を向けると、背中を反らすのを忘れる。立ち位置に気持ちが向けば、腹筋への注意が薄くになる‥‥。
 実際には、そんなことが多いわけです。その結果、無惨な出来になった写真はいっぱいあります。

 そして、面白いことに、そんなボツ写真は、あきらかに上下別れた服を着ているときの方が多かったのです。ワンピースの方が、ずっと高い率で「見苦しくない写真」が撮れていました。
 つまり、ワンピースを着ている時の方が、それぞれの部分への意識を連携してとらえることができたということです。
 そういう意味では、ワンピースという衣服は、服そのものが体型における個々の女の記号を全体として連携させてしまうものだと言えるかもしれません。

 女性にのみワンピースという服があり、また、多くの女性がそれを着ているのは、女性の方が、体全体をトータルで見られることが多い、また、女性自身が体型をトータルでアピールしようとすることが多いというなのことでしょう。

 つまり、「体」を「女の価値」と見なす社会構造が、厳としてあるということです。
 それはけっきょく、前ページで書いた「周囲からの視線」ということを、別の言い方で言っているだけでなのすが、そう見られていることが「女性のたいへんさ」であり、また一方で、それこそが「女性の醍醐味」でもあるのでしょう。

 もちろん、それは、「女性」という部分を「女装」と変えても、そのまま言えることです。

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