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Brief29 「キャミソール」:肩を出す=“幼さ”のアピール


 女性を見る時、私は、どういうわけか肩に目がいきます。肩が薄くて、首から肩口にかけてのラインがきれいな女性には、なぜか強く心惹かれるのです。
 どうやら私は、「肩フェチ」なのかもしれません。
 このエッセイで、「女の記号」の具体的な項目を「薄い肩」から始めたのも、けっきょく、そこがいちばん気になるからに他なりません。

 ですから、女装する時でも(すでに何度か書きましたが)「肩を見せる服」が妙に好きです。キャミソールやチューブトップの類の服を何着も持っています。

 しかし、じつは、女装のための服として、このキャミソールほど難物はありません。
 厚い肩と太い二の腕という最大の「男の記号」を、2つが2つともさらしてしまうことになるからです。

 そのあたりを考察する前に、いちおう、「キャミソール」の定義をしておきましょう。
 手近にある国語事典によれば――

キャミソール[ 英・フランス camisole ] 婦人用の化粧着の一つ。丈は腰くらいまであり、肩紐がついている。
                      (小学館 『国語大辞典』)

 ――とあります。
 「化粧着」というのは「ランジェリー」ということでしょうから、要するに、スリップより少し短い下着というような意味でしょう。
 文化出版局発刊の『服飾辞典』(もの書きなので、いちおう、そういうものも持ってます)で調べてみると、語源としては、ラテン語のカミシア camicia で、シュミーズ chemise なども、けっきょく元は同じものであるようです。
 要するに、ストラップで吊った下着ということです。
 そこから、肩ひものついたネックラインを「キャミソールネック」などというようになり、アウターにも使われるようになって、「キャミソールドレス」などへと転化してきたわけです。

 今、ふつうに街着として「キャミ」と呼べば、肩ひもがついていて肩を出して着るトップスということになります。もちろんトップがキャミソールになったワンピースというのもあるわけです。
 (それにしても、ファッション用語というのは、どうしてこうも不統一でいろんな言い方が出てくるのでしょう?)
 まあ、要するに、キャミソールとは、「肩ひもで吊って肩を出して着る服」と理解しておきましょう。

 ではここで、この「肩を出す」ということの意味について、ちょっと考えてみたいと思います。

 人間、子供の頃は、男も女もほとんどちがわない体型をしています。それが、第二次性徴が現れる頃から、徐々にそれぞれの方向へ変化していくわけです。
 これまで、「女の記号」「男の記号」という言い方をしてきましたが、体型における男女の記号というのは、大人になって変わってきた結果、記号になるものと、変わらないから記号になるものがあるようです。
 肩から腕にかけては、女性のボディの中で、最も変化しない場所、つまり子供時代の特徴を最も残している部位です。バストやヒップがはっきりと丸みを帯びていくのに比して、肩は、ほとんどそのフォルムを変えません。
 逆に、男の場合は、ここが大きく変化します。というより、ここががっちりと、またごつごつとしてくることが、即、体型としての「男らしさ」ということにもなるわけです。
 つまり、「薄い肩」と「細い二の腕」は、「女の記号」であると同時に「子供の記号」だということです。

 女性が肩を見せる服、キャミソールを着るということは、けっきょく、自分の中にある子供っぽさ、幼さをアピールしているということかもしれません。

 そして、女装でキャミを着るとき問題になるのは、まさにこの点なのです。
 たとえば、バストやヒップのように男の身体の変化が少ない部位で女の記号を表現するなら、パッドをつけ加えるとか、突き出すとかすればいいわけですが、最も変化の大きい部位で、そんな子供時代と変わらない女の記号を表現するのは並大抵のことではないわけです。というより、まあ、実際にはほとんど無理です。
 結局やれることといったら、前にも書いたように、肩を後ろに引いて背中を反らし、その上で肩を落とすくらいしかありません。あとはせいぜい、これも前に書いたように、ロングヘアで隠してごまかすことくらいでしょうか?
 「肩を見せる服が好き」とか言って、それに挑戦しようとしている私は、やはり、かなり無謀なことをめざしているようです。

 ところで、文学作品などで「薄い肩」とか「小さき肩」などという言い方が出てきたら、それは、たいていの場合、「儚(はかな)さ」や「脆(もろ)さ」を表現する言葉です。
 「幼く」て「儚く」て「脆い」‥‥ここから浮かび上がってくるのは、「守るべき存在」「保護すべき存在」という姿でしょう。
 女の記号の中でもかなり重要な位置を占める肩がそういう意味づけを持っているとするなら、そして、女性自身が、それを自分の方から積極的にアピールしたがるというなら、社会において、女性は保護されるべき存在として位置づけられ、女性自身もそれを是としているということに他なりません。
 本質がどうあれ、やはり厳として、そういう価値観の社会が存在しているということは確かでしょう。

 それにしても‥‥。
 薄い肩の女性に心惹かれ、自分が女装するとなったら「肩を見せる服が好き」という私は、いったい、「保護したい」と思っているのか「保護されたい」と思っているのか、どっちなのでしょう?

 ‥‥たぶん、その両方なんでしょうね。
 男にしても女にしても、人間は誰しも、その両面を持っているのだという気がします。

 というわけで、そんなことを頭に置きながら、次回は最終回。


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