【男の子】
「お兄ちゃん☆」
くい、くいっ。
と、廊下で思案する俺の手を、後ろから何者か
が引っ張る。
何者かというか、俺をお兄ちゃん呼ばわりする
少年など、世界に1人しかいない。
いや、世界はとても広いものなので、あるいは
出会う男すべてをお兄ちゃんと呼ぶ少年も、いる
かもしれないぞ。
世界に1人を、この学園に1人に変更だ。
いやいや、そんな可能性に関する無駄な考察は
さておき。
【悠斗】
「こら、久織!
その言い方は駄目だって、何度──」
俺は振り向いて注意をしようとするが──
【聖夜】
「てへへぇ☆」
【悠斗】
「おわッ!?」
俺は、目の前の光景の、あまりに衝撃的なさま
に驚愕の念を禁じ得なかった。
ありていに言うと、びっくりした。
【聖夜】
「どお?」
くるりと一周。
ふわりと舞うスカートの裾が、俺の目を引く。
【悠斗】
「え、いや、ああ……」
なんか変な声が自分の口から出た。
【聖夜】
「てへへ☆
この服、可愛いでしょ?」
【悠斗】
「いや、まあ、うん」
なんてこった。
この、どこから見ても問題なく可愛い少女は、
女の子ではないのだ。
男だ。男っつうか男の子だ。
男子校に通う男の子だ。
なんてこった。
【聖夜】
「てへへへへへ☆」
てへへじゃないよ。